のなめらかな頬や、細そりした鼻筋や、肉感的な受口の下唇などを、微笑しながら眺めた。
「この頃、やつれたようだね。早く、いい旦那でも見つけたらどうだい。」
それが、少しも皮肉な調子ではなかった。
「ええ。だけど、あたしに旦那がついても、やっぱり逢って下さる。」
「そうさねえ、逢ってくれれば逢ってあげるかも知れないが……。」
「まあー、恩にきせるの。」
突然、彼女はひどく艶をおびた眼付をした。坪井は煙草に火をつけた。そして、東京はもう八方塞がりになってしまったから、郷里の知人に少しまとまった借金を申込んでいるが、それが出来れば面白い、というようなことを無関心な調子で話した。蔦子も、大連にでも行ってしまおうかと思っておばさんに話したら、ひどく叱られた、というようなことを他人事《ひとごと》のように話した。そのうちに腹が空いてきたので、簡単な食事をして、それから別れた。坪井の梟のような眼が、なんだか曇りをおびていた……。
その、何の印象もない頼りない別れかたが、却って蔦子の頭に残った。夕方、おつくりをしてるうちに、それがまた頭に浮んできて、涙ぐましい心地になった。そして夜になっても、どこか
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