ということも、結局は気紛れな想像にすぎなかったが、或る日姐さんから少し手きびしい注意を受けて、この頃のお前さんの評判はとてもよくないとか、いつまでもそんなじゃあ家においとくわけにはいかないなどと云われると、急に淋しくなって、何となしに、おばさんに――おしげに――電話をかけてしまった。おしげは心配してやって来た。それを口実にして、一緒に近所の映画を一寸のぞき、帰りにソバ屋で休んだのだった。
 おしげの顔を見ると、蔦子はいつも母親にめぐりあったような気になり、どんなことでも甘えられるのだった。時々の小遣や贈物など、するだけのことはしているという腹が、猶更甘えやすくするのだった。そのおしげが、映画をみてもソバをたべても、ちっとも楽しそうな顔をせず、落付のない眼付でそっと蔦子の様子を窺っているらしいのが、蔦子には意外だった。
「なにか、相談ごとがあると云っていたじゃありませんか。」
 とうとうおしげからそう尋ねられると、蔦子は笑いだした。
「ええ。でももういいのよ、おばさん。」
 おしげは呆れかえったように、歯の一本欠けてる口をもぐもぐさした。それからまた心配そうに、どんなことでも打明けてくれ
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