子で、寄り添って棺を見送った。
 それから一週間ばかりたって、蔦子がふいに訪れてきた。其後、島村は一度さる料亭で彼女に逢った。なお、一ヶ月ほど後に、蔦子と深い仲になっていた坪井宏の訪問を受け、次いで上海から可なり詳しい手紙を貰った。そして彼等のことが島村にも大体分ったのだったが、真相がはっきり掴めたのは、それよりもずっと後になってからのことだった。それ故、叙述の筆はここで島村陽一から離れざるを得ないのである。なお序に云っておけば、おしげの遺骨は、暫く寺に預けておかれた後、蔦子の手で郷里の墓地に納められた。

 蔦子は島村のところでは一生懸命にとり澄していたが、そうした態度をとらなければいられなかったほど、おばさん――おしげ――の急死に心打たれたのだった。死因ははっきり説明してきかされたし、疑わしい点もなかったが、最後に逢った晩のことが、いつまでも頭について離れなかった。それに丁度、ひるま、坪井と頼りない別れかたをしたばかりのところだった。
 坪井が五十円の金を都合してきて、不義理のない新らしい出先で前晩から逢って、朝九時頃に起上り、それから正午頃まで、二三本の銚子だけで、ぼんやり過して
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