新生活が無償で得られたのではなく、まだまだ高い価を払ってそれを買い取らねばならぬ、そのためにはゆくゆく偉大な苦行で支払をせねばならぬ、ということさえ考えないほどだった。
しかし、そこにはもう新しい物語が始まっている――一人の人間が徐々に更新してゆく物語、徐々に更生して、一つの世界から他の世界へ移ってゆき、今まで全く知らなかった新しい現実を知る物語が、始まりかかっていたのである。これは優に新しき物語の主題となり得るものであるが、然し本篇の此物語はこれで終った。
「白痴」――
……やがて、全く夫人の見分けさえもつかなかった公爵を、昂奮にふるえる手で指しながらつけ加えて「もう、浮気をするのも沢山だわ。分別がついてもいい頃です。こんなものはみんな、こんな外国の暮しや、あなた方の欧羅巴は、みんな一つの幻影です。外国にいるわたしたちも、みんな一つの幻影です。……わたしの言葉を覚えていらして下さい。御自分で今にお分りになりましょう!」夫人はエヴゲニイ・バーヴロウィッチと別れるとき、殆んど憤激の態でこう結んだという。
「悪霊」――
ウリイ州の市民は、すぐ戸の向側にぶら下っていた。卓の
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