上には、小さな紙きれが載っていて、「何人をも罪する勿れ、余みずからの業なり。」と鉛筆で書いてあった。同じ卓の上には、一挺の金槌と、石鹸のかけと、あらかじめ予備として用意したらしい、大きな釘が置いてあった。ニコライが自殺に使った丈夫な絹の紐は、まえから選択して用意したものらしく、一面にべっとりと石鹸が塗ってあった。すべてが前々からの覚悟と、最後の瞬間まで保たれた明確な意識とを語っていた。
町の医師たちは死体解剖の後、精神錯乱の疑いをぜんぜん否定した。
「カラマーゾフの兄弟」――
「では、これで話は止して、これから法事に参りましょう。プリンだって心配せずに食べればいいんです。あれは古い古い昔からの習慣で、その中には美しい点もあるのです。」とアリョーシャは笑って、「さあ、行きましょうよ。さあ手をつないで行きましょう。」
「そして永久にそうしましょう、一生のあいだ手に手をとって行きましょう! カラマーゾフ万才!」とコオリャが歓喜のあまり再び叫ぶと、少年たちももう一度その声に調子を合せた。
勿論、茲でもこれだけの引用では足りないが、最後の数行に敬意を表することによって説意の補足とした
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