た。この方の旅客はいずれも程遠からぬところからやって来た小商人たちであった。例によって彼等はいずれも疲れきっていた。一晩のうちに眼は重くなり、からだは冷えきって、誰もの顔が霧の色にまぎれて薄黄いろくなっていた。
 三等車の或る一室に、夜明け頃から互に向き合って坐っている二人の旅客があった。二人とも青年で、いずれも身軽で、服装も贅ってはおらず、どちらも極めて特徴のある顔をしており、二人とも、やがては話でも交わしたそうな様子をしていた。若しも彼等が互に、特にこの場合にどんなところで自分たちが際立っているのかを知り合っていたら、彼等は必らず自分たちが不思議な偶然によって、ペテルブルグ・ワルシャワ線の三等車に膝をつき合わして坐っていることに、今更ながら驚いたことであろう。……

  「悪霊」――
 わたしは今この町――別にこれという特色もないこの町で、つい近頃もちあがった、奇怪な出来事の叙述に取りかかるに当って、凡手の悲しさで、少し遠廻しに話を始めなければならぬ。つまり、スチェパン・トロフィーモヴィッチ・ヴェルホーヴェンスキイという、立派な才能もあれば、世間から尊敬も受けている人の、身の上話か
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