が、また思想が、揺ぎなきものとして確立される。
 思想や夢や希望など、それらのものは初めからあったのではないかと、反問することを止めよう。勿論それらは初めからあった。如何なる作家にも如何なる作品にも、それらは多少ともある。然しそれらが揺ぎなきものとして確立されるのは、作品の全重量を荷い通された時のことである。荷い通されずに作品が中途で投げ出される時、または作家が中途で腰くだける時、思想やそれらはなまのままとして残る。コンクリートの中に納まって堂宇を支える鉄筋とはならずに、草の上に曝された錆鉄となる恐れがある。
 然らば作家は常に、それぞれの作品の全重量を荷い通さねばならないのであろうか。無論そうである。そうではあるが、最後にほっとつく吐息が高らかな歓喜の歌となるような、少くとも単に歌となるような、そういう道程はないものであろうか。思想や夢や希望からじかに出発する道程はないものであろうか。この間の消息について、或る種の童話や神話や経典が何等かの示唆を与えてくれないであろうか。
 そういうことこそ、多くの作家の夢想であり、殊に建設的な文学を意図する作家の楽しい夢想であろう。――ただ、この夢
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