のかい。」
「希望しているでしょう。然し、いろいろ勉強した方がよいことも、よく知っています。」
「君の話はよく分らんよ。伯父さんにそれだけ理解があるなら、早く卒業した方が……授業料だけでも無くて済むじゃないか。」
「然し、卒業すれば、働かねばなりません。」
「学校にいるつもりで、勉強だけすればいいじゃないか。」
「そういきません、道徳の問題です。」
「道徳……そんな道徳があるもんか。卒業出来るのを、いつまでもぐずついてるのは、伯父さんに対してなお不道徳だろう。」
「私自身の道徳です。卒業して働かないのは、不道徳です。」
「学校にわざわざぐずついているのは、君の言葉で、不道徳じゃないのかい。」
「不道徳とは思いません。勉強のためです。その上、学校にいる方が、信用されます。」
「信用……何の信用だい。」
「世間の信用です。先生でも、学生の私なら、信用なさるでしょう。下宿屋とか、アパートとか、印刷屋でも、学生なら信用します。卒業して働かないと、いくら勉強してると云っても信用しません。」
「然し君、信用というものは、身分に対するものじゃなくて、人間に対するものだろう。」
「そう思います。」
「
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