知ってるのを、李は訝りもせず、素直に答えた。
「学校にいる間に、いろいろなこと勉強したいんです。」
「沢山講義を聴いてるのかい。」
「講義ではありません。植字とか、編輯とか、校正とか、研究してみました。」
 そして彼は、或る小さな印刷所に手伝いに行ったこと、或る同人雑誌の編輯を手伝ったこと、或る知人の校正をさせてもらったことなどを話した。但しこの最後のものは失敗だった。面白くないものは校正も嫌気がさし、面白いものになると、校正はせずにただ読んでしまうのだった。
「だって君、そんなことは、学校を出てからだってやれるだろう。」と矢杉は云った。
「やれますけれど、学校を卒業すると、学費が貰えません。」
「学費が……それじゃあ、誰からか補助でも受けてるのかい。」
「父がいませんから、伯父から貰っています。」
「伯父さんなら、卒業してからでも、生活費を助けてもらえるだろう。」
「それはいけません。卒業すれば、働かねばなりません、働くとなると、勉強する時間がなくなります。」
「すると、伯父さんは、学部が三年で卒業出来ることを、知らないのかい。」
「知っています。」
「そして、早く卒業しろと云わない
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