いてみた。どの科目もみな優良だった。ただ一つ不思議なのは、各学年の修了科目がごく少数で、恐らく試験を受けたり受けなかったりしたのであろうか、普通なら三年間で卒業出来る筈なのに、もう四年間も在学していて、まだ三四の科目が残ってることだった。へんな学生だと、事務員も云っていた。
 そういう記憶が、矢杉の頭に蘇ってきた。
 座談会は散会となり、矢杉は自動車を断って少し歩くこととし、李永泰と話の続きもあるようで、自然に連れだって行くことになった。他の学生達と二人の教師とは、文章の問題などには興味がないのか、或は李が始終沈黙を守っていた末に矢杉と長々話しだしたのに遠慮してか、或は道筋が異るのか、別れていってしまった。
 矢杉は李と二人で、小川町の会場からお茶の水駅東口の方へ、広い静かな街路を、少し酒にほてった身で夜気を吸いながら、ゆっくり足を運んだ。
 話題は文章のことから離れて、矢杉の好奇心の向く方へ動いていった。そして旧知の師弟の間に於けるような会話が続いた。
「君はどの科目も成績が優良なのに、どうして五年間も学校にぐずついてるんだい。早く卒業した方がいいじゃないか。」
 そんなことを矢杉が
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