うした呼吸があったのか、ビール瓶は壊れもせず、相手は頭蓋骨が真二つになってぶっ倒れた、というのだ。
「また始まったぞ。」
片隅の浮浪青年は呟いて、それから声を高めた。
「よう、おやじさん、頼んますぜ。実地にひとつ、すぱーり、きれいにやって貰いたいな。」
「よろしい、相手さいあれば、いつでもやるよ。手練ものだ。」
本当にビール瓶を振上げて、腰掛けたまま身構えの様子で、すぱーりと、打下してみせた……。とたんに、激しい物音と共に、一同は飛上った。ビール瓶が彼の手からすべり脱けて、土間に砕け散ったのだ。
側の「とりうち」よりも、彼自身の方が更に仰天して、そしてぽかんとしていた。
「新発明だ。」と浮浪青年は叫んだ。「空のビール瓶が、爆弾の代りをするたあ思わなかった。おやじさん、威勢よくひとついこう。」
それをきっかけに、「おやじ」のところへ四方から盃が差出された。「おやじ」は初め蒼くなってたのが、こんどは真赤になり、それから本当に親父らしく得意げに、それらの盃を受けた。
三
李はだいぶ長く間をおいて、吉村を訪れて来た。
「あの原稿どうだったでしょうか。」
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