的な態度にも似ず、いきなりそう尋ねかけてきた。
 吉村は笑みを浮べ、「おやじ」一篇の印象を頭の中に模索しながら、ありのまま答えた。
「大体面白いが、拵えごとが多すぎるようだね。」
「へえ、分りますか。」
「推察だよ。例えば、あの終りの方の、空のビール瓶のところなんか。」
「あれは、実際にあったことです。」
「そうかも知れないが、あの作品のなかでは、拵えごとに、或は借りものに、なってるようだね。」
「それはそうです。しめくくりがつかなかったから、ちょっと、借りてきたんです。」
「作品のなかで、それがばれちゃあいかんね。」
「分りました。それから外には……。」
「外には……そうだね、あのおやじさんの、道徳というか、思想というか、要約されてるところなんか……。」
「ああ、あれは私の思想を、ちょっとぼかしたんです。」
「君の思想だって……。」
「そうです。」
 そして李が語るところに依れば、あの飲み屋は、彼がちょいちょい立寄るおでん屋を潤色したものらしく、「おやじ」とも面識があり、殊にその息子とは懇意にしている。親子ともに或る大きな印刷会社の植字工で、両者の関係もあの通りであって、李はその父子
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