るずる引崩す。習慣でないものは、凡て新鮮で、何等かの意義を持っている。習慣のうちでも、最も恐ろしいのは飲酒と喫煙だ。それは常住不断の習慣――中毒にまで立至る習慣――になり得るからだ。所有慾や色慾……窃盗や放蕩も、常習になって初めて害悪で、発作的なのは潔白と云ってもいい。殺人などでさえも、発作的なものであるから、それ自体として、多くは潔白なものだ。恋愛が害悪でない所以は、それが習慣になり得ないからだ。恋愛と習慣とは両立しない。だから恋愛はいつまでも害悪とならない。然し放蕩の方は、習慣になり易い。だから放蕩は害悪となる。最も習慣になり易いものは飲酒だ。だから飲酒は恐ろしい害悪となる。
こうした支離滅裂なことを、而もどこかに一貫した筋途のあることを、彼はしきりに饒舌りながら酒を飲み、酒を飲みながら饒舌りたてた。
「わたしはもう駄目だ。こう癖がついちまっちゃあ、いくら酒を止めろたって、そりゃあ無理だ。うちの者たちは、それがよく分ってくれる。有難いものだ。早くに子供を拵えたお蔭だと、わたしは思ってる。有難いことだ。だが、息子だけには、同じ途を歩かせたくない。だからさ、ここでは、わたし一人だ。全
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