で頼りになるように思われてくる。抽象的な思想的な建造にも、建築物的な堅固さが要望される。二度の大戦の激動によって、多くの信条、多くの信念が、次々に崩壊してゆくのを見た後のことだ。而もまだ戦争の闇雲は晴れていない。その上に原子力時代に突入している。不安な思惟はなるべく堅固な建造形式を模索する。ここに小説が新たな役目を提供する。そしてこの役目から、小説にはまた別種のプラスが付加される。
右の二種のプラス的要素は、それ自体の性質上、現在を基盤にして将来を指向する。そしてこのプラス的要素が主要な創作モチーフである小説も、現在を基盤にして将来を指向する。取材は現在の事実であろうと或は過去の事実であろうと、息吹きは将来へ通う。つまり現実の中に将来が萠芽されるのだ。――ここにレアリズムの限界があり、レアリズムの自己崩壊がある。
そこで、私はまた早速に言う。写実主義の文学、現実の赤裸々な相貌を呈出することだけに止まる文学を、私は軽蔑する。もとより、文学は単なる夢物語であってはならず、現実の裏付けがなければならず、素材は現在や過去やまたは歴史上のいずこに求めても構わないものであり、自叙伝の存在理由も
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