今日の条件
豊島与志雄
ごく大雑把にそして極めて素朴に、人間の生活の理想的な在り方を考えてみる。――週に六日、毎日六時間ばかり、何等かの社会的な生産的な勤労に徒事し、それで生計を立て、その他の時間を、随意に自由に使用する。そして勤労によるこの生計は、僅かに生存を維持するだけのような低級なものではなく、必要にして充分な余裕を持つ程度のものであらねばならぬ。随って、其他の時間の任意な使用は、原則的に、報酬を目差すものではなく、各人各種の技能の花を咲かせるものとなる。時間は充分にあり、高度の技能も練磨される。芸術もこの中の花の一つに位置する……。
以上、理想的な考え方で、今日ではまだ空想の域を脱しない。然しながら、理想は目標であり、ここに理念の基盤を置くべきであろう。同時にまた、目標はそれ自体が吾々へ近寄って来るものではなく、吾々の方からそれへ向って歩いて行かねばならぬもの故、到達までには、努力奮闘の務が吾々に負荷される。ここに今日の条件がある。――芸術もさまざまの花の一つだというのは、遙か彼方の社会に於けることで、現在では、今日の条件がいつも重大に付きまとう。
そこで、早速に言う。
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