児風の顔立が変に骨立って、唇に黒い皺が寄っていた。それが、日の光のさしてる窓の真中にぽかっと浮出していた。
「何をそんなに見てるの。」
 彼女はそう云って弱々しい微笑を洩らした。私は飛んで行きたいのをじっと我慢した。
 彼女が醜くなり陰気になるに従って、私は反対にまた彼女に惹きつけられそうだった。初め彼女に惹きつけられたのと逆の気持だった。それを私はぼんやり自分でも感じて、どうしていいか分らなかった。
 そのうちに、不意に、全く不意に、最後の事件が持ち上った。
 風のない少し暖かな、三月初めの夜中だった。曇っていたのか晴れていたのか、ただ星が二つ三つだけ光ってたことを私は覚えている。
 何か大きな音がしたようだった。それを夢現に聞き流してまたうとうとした頃、私はいきなり母から呼び起された。喫驚して起き上ると、母は何とも云わないで裏の方へ出ていった。姉も続いて出て行った。私は一寸待ってから、ふいに駆け出した。
 裏の狭い空地の中、お清の室の窓の近くに、低い椿の木の横に、寝間着のまま母と姉とお清とが立っていた。お清は裸の蝋燭を手に持っていた。そのほんのりと赤い光の流れてる地面に、起き上ろう
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