児風の顔立が変に骨立って、唇に黒い皺が寄っていた。それが、日の光のさしてる窓の真中にぽかっと浮出していた。
「何をそんなに見てるの。」
彼女はそう云って弱々しい微笑を洩らした。私は飛んで行きたいのをじっと我慢した。
彼女が醜くなり陰気になるに従って、私は反対にまた彼女に惹きつけられそうだった。初め彼女に惹きつけられたのと逆の気持だった。それを私はぼんやり自分でも感じて、どうしていいか分らなかった。
そのうちに、不意に、全く不意に、最後の事件が持ち上った。
風のない少し暖かな、三月初めの夜中だった。曇っていたのか晴れていたのか、ただ星が二つ三つだけ光ってたことを私は覚えている。
何か大きな音がしたようだった。それを夢現に聞き流してまたうとうとした頃、私はいきなり母から呼び起された。喫驚して起き上ると、母は何とも云わないで裏の方へ出ていった。姉も続いて出て行った。私は一寸待ってから、ふいに駆け出した。
裏の狭い空地の中、お清の室の窓の近くに、低い椿の木の横に、寝間着のまま母と姉とお清とが立っていた。お清は裸の蝋燭を手に持っていた。そのほんのりと赤い光の流れてる地面に、起き上ろう
前へ
次へ
全64ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング