た。お新は夜十二時過ぎでなければ帰って来なかった。それを母は眼をしょぼしょぼさせて待っていた。母は気性はあくまでも確かだったが、眼は益々悪くなっていった。いつも目脂《めやに》をためてじめじめした眼付をしていた。夜は何も出来なかったけれど、昼間はせっせと内職の竹楊子を拵えていた。その惨めな仕事に時々、父のカンカンいう金槌の音が織りこまれた。が大抵は、父はもう酔っ払ってばかりいた。そして炬燵にねそべっていて、不意に飛び起きては眼をぎろぎろさしていた。
不幸なことは、お清につき纒ってる例の男が、益々執念深くなってゆくようだった。夜遅く父がむっくり起きるのを私は見たことがあった。ただ、父は初めほど戸締りを厳重にしなくなった。というよりも寧ろ、戸を開け放しておきたがってるかのようだった。私は一度も見たことのないその男に対して、さまざまの空想を逞うしながら、幽鬼にでも対するような恐怖を覚えた。
お清とお新だけが、凡てに無関心に伸び伸びと振舞っていた。大抵連れ立ってカフェーに出かけていった。が気のせいか、お清は次第に醜くなるようだった。
或る朝、顔を洗ったばかりの彼女を見て、私は吃驚した。混血
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