黒点
――或る青年の「回想記」の一節――
豊島与志雄
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)醤油《おしたじ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大抵|午《ひる》近く
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+昜」、498−上−21]
−−
前から分っていた通り、父は五十歳限り砲兵工廠を解職になった。
十二月末の、もう正月にも五日という、風の強い寒い日だった。父はいつになく早く帰ってきた。
「電気はまだか、薄暗くなってるに。」
初めは怒鳴りつけるような、後は泣くような、声の調子だった。が、まだどこか昼の光の残ってる中につけられた、赤っぽい電燈の光で見る父の顔に、私はなお一層びっくりした。父は弁当箱を抛り出して、火鉢の前にぼんやり坐っていた。その顔付がまるで腑脱けのようで、眼だけが気味悪く光っていた。
これはずっと後の話だが、私の友人に、初犯二年間の刑務に服してきた男がいる。私も少し掛り合いの間柄だったので出迎いにいってやった。
次へ
全64ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング