っついていって長く離れなかった。その方へまた私は、見まいとしてもじりじり気が惹きつけられていった。父が眼をつぶって顔を外らすと、私はほっと息がつけた。がそれでもやはり、父の心全体がお清の方にねじ向いてるのが感じられた。
お清は勿論父の眼付を感づいてるに違いなかった。上気してたような顔が次第に蒼白くなってゆき、あどけない笑いが消え、額のあたりが冷たそうになっていった。そしてしまいには反抗的な態度に出た。爪の色がどうだとか云ってしきりに指先を弄んだ。その手をだらりと炬燵の上に投げ出した。膝を崩してしどけない坐り方をした。わりに毛深くて困ると云って、実は毛の少いまるっこい二つの腕をまくってみせた。彼女の皮膚は非常に毛穴が小さく肉のぼってりした感じで、見ようによってはいくらか不気味だった。
それらのものを一々、父の執拗な眼付が吸い取っていった。
お清は時々かすかに身震いをして唇を噛んだ。今にも彼女が喚き出しはすまいかと思って、私はびくびくしていた。
その時、話はだんだん内証事に落ちていって、母はお清がつけ廻されてる男のことを持ち出した。その男を刑事と間違えて酒のことで心配したなどと云っ
前へ
次へ
全64ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング