ら、何とかなるかも知れねえが……。」
「寺田さんもそうかい。」
「うむ。」
私はぼんやり聞いていたが、その寺田さんという言葉に、はっきり眼がさめてしまった。然し父母の話は、私の頭ではよく分らない事柄に及んでいったし、声も低くなっていった。そのうちに、父はも少し酒を飲みたいと云い出した。
不思議なことには、その晩母は少しも逆らわなかった。平素なら、夜遅くなって父が酒を飲み出したりすると、母は頭から小言を浴せて、飲んだくれだの碌でなしだのと叱りつけるんだが、その晩に限って何とも云わないで、台所から一升壜まで持ち出してきた。
「酒は沢山あるから、いいだけおあがりよ。わたしも一杯やってみよう。」
焼※[#「魚+昜」、498−上−21]の匂いが[#「匂いが」は底本では「匂いか」]してきたので、私は寝返りをしたり、欠伸をしてみたりした[#「してみたりした」は底本では「してみたりた」]。
「まだ起きてるのかい。」と母がこちらの室を覗き込んできた。[#「覗き込んできた。」は底本では「覗き込んできた。」」]
「うむー……。」と私は生返辞をした。「何時だろう。」
「なにを生意気なこと云ってるんだい。
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