私は夜中にいきなり母から引きずり起された。
母は歯をくいしばってぎりぎりやっていた。父は薄暗い眼をしていた。お新が私を睨みつけていた。
「お前は今日、何をしたんだい。」母は逆せ上って舌が廻りかねてるようだった。「餓鬼のくせに、わたしに嘘を云って、カフェーなんかに遊びに行って……何だと思ってそんなことをしたんだい。」
「そして一円払っていったんだよ。」と姉がつけ加えた。
「そのお銭《あし》を、どこから持っていったんだい。……さあ云ってごらん。云えないか。云えないだろう。この野郎……。」
返辞をする間もなく、私はそこに叩きつけられてしまった。力任せに二つ三つ殴られた。
殴ってしまうと、母は少し気が静まったようだったようだった。
「さあ、どうしてあんなとこへ行ったか、云ってごらん。お銭もどこから持っていったか、白状しておしまい。すっかり云ってしまわないと、承知しないよ。」
だが、私はしつっこく黙っていた。
母はくどくどと責め立て初めた。愚痴っぽくなったり、怒り出したりした。何のために学校へ行ってるのか、とも云った。先生に云いつけてやる、とも云った。カフェーなんか子供の行くところじゃ
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