続けていった。
「知らないよ、もう……。お清ちゃんにじかに聞くがいいわ。」
姉は本当に怒りだしたようだった。父もそれきり口を噤んだ。
その時になって気付いたことなんだが、父と姉とがお清のことを話してる間、母は殆んど一言も口を利かなかった。それも私に変な感じを与えた。そして、父の執拗な問いと母の沈黙とが、冬の夜更のひっそりした寒さの中で、私の幼い頭に絡みついてきた。
私は頭から布団を被った。長く眠れなかったような気がする。父母と姉とはまだ起きていた。間を置いては何だかもそもそ話をしていた。
私は父の方のことは殆んど気付かなかった。そして新たな興味でお清に近づいていった。姉の話を聞いてから、お清が何だか晴れやかな華々しいものに思われた。それは自分達のじめじめした生活とは全く別な世界のようだった。
前に述べた通り、私は彼女と顔を合せる機会はごく少かったが、それでも日曜日にはいつでも逢えた。彼女は姉と連立ってカフェーに往復していたので、朝はよく姉を誘いに来た。それからまた彼女は屡々カフェーを休んでいた。そんな時は大抵|午《ひる》近くまで寝ていて、何処かへ出かけてゆくこともあり、室の
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