中でぼんやりしてることもあった。
 私は不器用だった。いきなりぞんざいに近寄っていったり、遠くからこわごわ眺めたりした。それを彼女は殆んど気にも留めないらしかった。
 その代り、妹のお三代は彼女によく馴染んでいた。彼女の方でも千代紙なんかを買ってきてくれることがあった。そしていつも「みいちゃん」と呼んでいた。そのやさしい呼名がお三代をひどく喜ばせたらしい。
 或る朝彼女は裏口にやって来て呼んだ。
「みいちゃん……みいちゃん……。」
 お三代が立っていくと同時に、私も立っていった。彼女は朝日の光の中にぱっとした身装で、紙風船をふくらましてぽんぽんやっていた。嘗て見たこともない大きな美しい五色のものだった。
「これをあげましょう。」
 私は羨ましくなった。
「僕にもおくれよう。」
 彼女は私の顔をしげしげ見守っていたが、突然笑い出した。
「ほほほほほ……あんたも玩具《おもちゃ》がいるの。」
 私は喫驚した。何て笑い方だったろう。すっかり面喰ってしまった。
「いるならこんど買ってきてあげるわ。でも……突けて。」
「突けるとも。」
 私は妹を押しのけて、紙風船をついた。ぽーんぽーんという素敵な
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