を張ってるくらいらしかった。然しそのことが、変な風にこんがらかっていった。
一月の末から、寺田さんがいた隣家の離室には、姉のお新と同じカフェーに出てる若い女が、姉の紹介でだろうが越してきた。
肉付のいい中柄な女で、顔立も姉なんかよりずっと整っていた。そして、額から眼から口元の様子が、真面目な時には一寸西洋人風に見え、笑う時にはあどけなく見えた。カフェーで混血児《あいのこ》と綽名されてるそうだった。
私は初め彼女に余り馴染めなかった。その上、彼女は姉と一緒に、午前中に出かけて夜十二時過ぎでなければ帰って来なかったし、私は朝早くから学校へ出て行くので、顔を合せることも少なかった。
その女が越してきてから、暫くたつうちに、父は俄に戸締りを厳重にしだした。隣家との間の木戸に輪掛金をつけたり、裏口の古戸に新らしい板片を打付けたり、表も早くから閉めてしまった。
「大丈夫だったら。……まさかそんなことじゃあるまいよ。」
そう母が云ってるのを私は聞いた。父は首を振っていた。
「そうじゃないかも知れねえ。だが、俺は家の中をじろじろ見られるのが嫌えなんだ。見られたっていけねえことがあるわけじゃね
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