えが、どうも、薄気味悪くって……。それに、縁の下の……あれだって、いつばれるか知れねえ。奴等の眼が早えからな。」
「ばれるならもうとうにばれる筈じゃないか、お新の友達っていうからね。往きも帰りも一緒なんだろう。」
「だがどうも、合点がいかねえよ。」
 それが何のことだか私には分らなかったが、ただその時の感じで、父の方が道理らしい気がした。
 然し実は、父の方の間違いだと分ってきた。
 或る晩遅く、私はふと眼を覚した。隣りの室に、父も母も寝間着の上に着物をはおって坐っていた。その前に、カフェーから帰ってきたままの姿で、姉がいきり立っていた。
「家の近くにいちゃいけないというなら、あたしからお清《せい》ちゃんにはそう云うよ。ばかばかしい。人の情人《いろおとこ》を探偵と間違える者がどこにあるものかね。だからお父つぁんは耄碌したって云われるんだよ。」
「だが、こないだなんか、朝っぱらからやって来て、家の中をじろじろ覗き込んでいったぜ。」
「そりゃあ、隣りだし、あたしの家だってことが分ってるからだよ。これであたしがちゃんとしてるからいいが、もし色っ気でも出して、男につけ廻されるようなことになった
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