したりして、私に星の名を教えていた。天の川を中心にあちらこちらへ飛んでいくので、私にはどれがそれだかよく分らなかった。そんな星の名前なんかより、それを指し示してる寺田さんの右手の、不恰好に長いような感じのする方へ、私の注意は向きがちだった。それは変に悪魔的な手だった。今にもぬーっと伸び出して天まで届きそうに思えた。
「昔は、ああいう星が動いていて、東から西へぐるぐる廻ってるものだと思われていたんだよ。ところがだんだん調べてみると、動いてるのはこのわたし達の地球で、星の方はじっとしてることが分ってきた。何万年も何億年も、あの限りなく広い空の真中に、いつまでもじっと一つ処に浮いているんだよ。或は動いてるのかも知れないが、まだそこまではよく分らないから、今のところ動かないものとしてあるんだ。」
 星を指してる寺田さんの手と、永久に大空の一つところに浮いてるという星とに、私はすっかり気圧されてしまって、むりに反抗してみたくなった。
「だって……だって……星は動くよ。」と私は呟いた。「僕が歩き出すと、星がついて来るんだ。」
 そして私はとっとっと歩いてやった。一寸間があった。と突然あはははと高く
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