云えやしない。何てことをするんだい。お前さんがそんな了見だから、お花だって啓次だって、家に寄りつきゃしないんだ。自分の子供の顔に泥を塗るようなことを、よくものめのめ云って行けたものだね。そんなことをするよりは、立ん坊でもした方が、どれほど立派だか知れやしない。お前さんは乞食根性だ。」
それでも、何と云われても、父は弁解をしなかった。
「ほう、そんなにいけねえことかなあ。」
そして陰欝に顔を渋めてるきりだった。
それでも、十日ばかりたつと、父は晴れやかな顔をして、また古釘の包みを持って帰って来た。
「さすがは大店《おおだな》の旦那だ、お前達とは了見が違うぜ。俺が行って話をすると、そいつあ啓次の方がいけねえって、さんざん小言をくってた。そして、見ねえ、この通り向うから頼んで、古釘を持たしてくれた。どんな物だって、世の中に廃り物はねえんだ。その心得が肝心なんだ。山本屋じゃあ、これから俺の手におえねえほど古釘を取っておくってよ。荷物の出入がはげしいから、古釘はいくらも出る、新らしい釘はいくらも要る、そこで俺の仕事が役立つってわけだ。金なんか貰わねえ。俺はただ働えてやるんだ。」
父はすっ
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