#「魚+昜」、501−上−19]などをしゃぶっていた。それまではいつも味噌汁と漬物ばかりだったのである。そして晩の惣菜もずっとよくなっていた。職に離れた父だけがそうなので、私には不思議に思えた。姉までが時々、カフェーから何やかや父に持って来ることがあった。
然し父は皆から食物の上で大事にされながら、他の事では殆んど相手にされなくなっていった。正月の買物のことだの、炭を買入れることだの、竈の下を瓦斯にするか薪にするかということだの、姉がカフェーを住み換えるかどうかということだの、秋から持ちこされていた家賃値上の問題だの、凡てが母と姉との間で相談され解決されてるようだった。
或る時、植物園の前のところに、駄菓子屋が一軒売物に出ていた。母と姉とは二日も三日もそれについて話をし合って、わざわざ店を見にまでいった。
「そりゃあいいぜ。」と父は云った。「そうなりゃあ、俺が車を引っ張って売りに歩いてもいい。」
「まだきめてやしないんだよ。」
母はそう答えたきりで、姉の方へ話を向けてしまった。
「だが、俺もこうぶらぶらしていたんじゃあやりきれねえからな。」
そして父は、時々出歩いては職を探し廻
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