やってるのだった。それがはっきり分ると、僕は理屈をぬきにして、一人でに微笑が催されたのである。その小便の利目かどうか知らないが、五月の中頃に、不思議なことには、とても駄目だと見えていた公孫樹の枝から、可愛いい若芽が萠え出してきた。
「おい来てごらん。どうだ、公孫樹の芽がふいたぞ。」
父は何度もそんなことをくり返して、僕達に新芽を見させた。新芽が大きくなり枝が伸び初めると、毎朝のように誰かをその根本に呼び寄せた。そして如何にも晴れ晴れとした顔をしていた。僕は小便のことを思って一人で可笑しかった。余り可笑しいので、つい母へ告口してしまった。母は苦笑したが、次には小言をもち込んだ。
「いくら何だって、汚いじゃありませんか。庭の中ですもの。」
それには父も閉口したらしかった。小便の効能で生き返ったのだと冗談を云いながらも、もう生き返った以上は……と小便を止めてしまったらしかった。足の皮ばかりの肥料となった。
その頃から、父は元のように元気になり、頭もよくなったとみえて、前に倍して働き初めた。そして二年後には、本当に家を買い取ってしまった。
その晩は一家中の喜びだった。僕達まで何だか嬉し
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