姿で、うっとりと胎内の何かを見守っていた。
胎内の何かを! としか順造には実感出来なかった。玉のような子であるかも知れないが、また、件《くだん》のような怪物であるかも知れなかった。秋子は右の眼が左の眼よりだいぶ小さかった。それが遺伝のうちに強調されて、鼬《いたち》の右の眼と大入道の左の眼とを持った子供となるかも知れなかった。彼女の耳の下の黒子《ほくろ》が、子供の顔半面に拡がるかも知れなかった。また彼自身も、自分で気付かないどんな欠点を持ってるかも分らなかった。彼は試みに両手を差伸してみた。どんなにしても、右の手の方が少し長いように思えて仕方なかった。また彼は、大森林の中に迷い込んだ者の話を思い出した。森から出ようと思って真直に歩くつもりでも、必ずまた以前の所に戻ってくるそうだった。目隠しをして広場を歩かせられると、誰でも皆自然に曲線を辿って、決して真直に歩けないそうだった。そしてみると、人間の足はどちらかが必ず短いということになりそうだった。それが少しひどくなると、跛足《びっこ》になるの外はなかった。その他、偶然の畸形はいくらでも想像出来た。指が一本足りないこと、頭がまる禿げであるこ
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