歪んでいた。笑う時左の頬に可愛い笑窪が出来た。ちょっちょっと舌を鳴らしてみせると、にっこり笑った。何かに見とれながら、うぐんうぐんと訳の分らない声を立てた。いつのまにか赤味が取れて真白な色になり、房々としたしなやかな黒い毛が、額に垂れて先を少し縮らしていた。円っこい凸額《おでこ》だった。
 何を考えてるのかしら?
 余りに頼り無い小ちゃな存在だったのが、いつしかしっかり根を下して、自分の運命を荷おうとしていた。その存在と運命とが――以前別々なものとなって順造の眼に映ったのが――一つに結び合されるのを見て、彼は突然云い知れぬ愛着を感じ出した。
 胸に抱き取って、いつまでも庭を歩いてやった。和やかな初春の外光が、その瞳にちらちら映っていた。まぶしそうな渋め顔をしているのが、たまらなく可愛かった。
 そういう彼の様子を、竜子は不思議そうに眺めた。
「どうしてそう急に可愛くおなりなすったのでしょうね?」
 その眼は皮肉な色に鋭く輝いていた。
 お前が妊娠したせいだ! と彼は心の中で叫んだ。理屈ではなかった。じかにそう感ぜられた。
 彼は出来るだけ順一の側についていた。他の座敷に居る時順一の泣声
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