は離れの押入の中に、秋子の遺骨が出しっ放しになってるのを見出した時、冷たい脂汗が額ににじんだ。
 それが夜になると、怪しい幻覚の形を取ってきた。
 竜子の前を逃げるようにして、離れの室にやって来、窓の下に据えてる机に向うと、丁度後ろが押入になっていた。それがしきりに気にかかった。いくら努力してもいつのまにかそちらへ注意を惹かれていた。音もしないですうっと襖が開いて、白い布がはらりと解け、白木の箱や骨壷が[#「骨壷が」は底本では「骨※[#「壼」の「亞」に代えて「亜」、57−上−15]が」]まざまざと見えてきた。何か大きな力でねじ向けられるかのように、首を徐々に振り向けてみると、押入の襖は閉まっていた。下半分がただ白くて、上半分に電燈の笠の影を薄暗く受けていた。
 彼は怪しい衝動に駆られた。立ち上って押入へ歩み寄り、骨壷を[#「骨壷を」は底本では「骨※[#「壼」の「亞」に代えて「亜」、57−上−19]を」]開いて、中の白いやつを歯でかじった。食塩と灰とを混ぜて噛むような味だった。不気味な戦きが背筋を走った。慌てて室の中を見廻した。誰も居ないのを見定めて骨壷を[#「骨壷を」は底本では「骨※[
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