……と何時までも同じ単調な響だった。それが急調子の読経の声の間から、絶え間なく湧き上ってきた。すぐ膝の前で力籠めて伏金《ふせがね》を叩いてる半白の僧侶が、鋭い響によく鼓膜を痛めないものだと、彼はその時不思議に思った。――ガチャリ、とただ一度の響だった。胸の中に鉄の錘を投げ込まれるような残忍な感じだった。その時彼は、顔の筋肉を引きつらして、閉め切った火葬の窯《かま》の鉄の扉を見つめた。
 その三つの音が、長く彼の耳に残っていた。……骨揚《こつあげ》に行って、白木の火箸の先で灰の中から、形のある遺骨を拾い出し、それを瀬戸の壷に[#「壷に」は底本では「※[#「壼」の「亞」に代えて「亜」、53−下−13]に」]つめ、秋晴れの爽かな外光の中を、何とも云えない悲壮な清浄な気持で帰ってきた、その同じ気持を、何時までも保っていたいと願っていた、その下から、三様の音がともすると響いてきた。夜遅くぼんやりしてると、耳の底にこびりついてる音に、我知らず聴き入ってることがあった。
 彼は堪らない心地になった。
 如何に秋子を愛していたことか、そして、如何に愛し方が足りなかったことか!
 そして彼の心に浮んでく
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