喰い込んでいった。
何を考えるともなくぼんやりして、室の中を片付けていると、戸棚の隅から、紙に包んだメリンスや羽二重の布が二三個出てきた。順一が生れて間もなく、親しい友から貰った祝着だった。貰ったままで忘れられてしまっていた。
彼は初めて眺めるような心地で、順一の顔を見守った。長い頭がいつしか円くなり、頬から口のあたりへまとまりが出来、額の皺がなくなって、ちらつく光の後を眼で追うようになっていた。頬にふっくらと肉がついていて、絹のようにすべすべした皮膚だった。
その顔を指先でつっつくと、すぐに口を持ってきて、あちらこちら探し廻った。きょとんとした顔付をしたり、妙な渋め顔をしたり、大きく口を開いて泣き立てたりした。小指の先をくわえさせると、生温《なまあったか》い粘り気のある唇でちゅっちゅっと吸った。しまいには焦れだした。
「お可愛そうですよ、そんなにからかいなすっては。」と竜子は云った。
彼女は順一を抱き取って乳をやった。円く張った真白な乳房が、順一の頬と同じくすべすべした皮膚を、惜しげもなく曝していた。
順造は喫驚して眼を見張った。すぐ自分の側に余りにまざまざと、彼女の存在が
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