一が生れた当時口ににじませたのと同じ色をした、どろどろの液体で、痰吐の半分以上もあった。秋子はそのまま、枕の上にがっくりとなった。
それからは、容態が目立って悪くなった。腹痛が襲ってくると、彼女はもう身体を引緊めるだけの力もないかのように、だらりと四肢を投げ出しながら、痛みに身を任せて、顔だけをくしゃくしゃに渋めた。下痢の回数が増し、嘔吐が日に一二回あった。何れもひどい悪臭の液体だった。腹が益々膨脹してきた。九度五分前後の熱が続き、脈が百十近くにのぼった。腹痛の合間には、嗜眠に近い状態でうとうとしていた。坪井医学士は、診察を済すとただ黙って帰って行った。看護婦にドイツ語で一二言囁くこともあった。
順造はもう何にも尋ねなかった。順一と秋子との間を往き来した。看護婦は二人共悪くなかった。一人は、てきぱきした言葉使いをする、眼付のしっかりした大柄な女だった。一人は、言葉に多少訛りのある、内気な静かな女だった。彼女等は秋子と順一とに交代についていた。順一の方にくると、順一が眠ってる間は一緒に眠った。
順造は、昼間は精がつきたように、じっとしてるとすぐにうつらうつらした。夜になると頭のしん
前へ
次へ
全89ページ中43ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング