今後のことだけだった。そうだ! と彼は心のうちで叫んだ。
「姙娠ならそのままにしておいちゃいけないじゃないか。医者に診《み》せてごらんよ。産婆にもかからなきゃなるまい。何だったかな……そう、岩田帯とかもするんだろう。それから……。」
「そんなに慌てなくっても大丈夫ですよ。」
順造は気勢をそがれてきょとんとなった。それを更に頭から押被《おっかぶ》せられた。
「私はただ一つ約束して頂きたいことがあるんです。あなたは何かと云えばすぐ私を打ったり叩いたりなさるけれど、ただの身体ではないんですから、少しは遠慮なさるのが当り前ですわ。もしお胎《なか》の子供に傷でもついたら、どうなさいます? 姙娠中は転んでも危険だというじゃありませんか。七ヶ月か八ヶ月目に、縁側から足を踏み外して落っこったため、生れた赤ん坊が、顔半分すっかり赤痣になっているというようなこともあるそうですよ。手の指がくっついてたり足が曲ったり、身体の方々に赤痣があったり、……そんな子供を生んでも宜しいんですか。子供が大事だったら、少しは私をも大事にして下さるのが当然ですわ。それとも、子供なんかどうでもいいと仰言るのなら、私にだって覚
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