は医学士が引受けてくれた。
 順造は乳母が来るまで二人ほしいと頼んだ。
「大丈夫だから、安心しておいで。」
 秋子が強く首肯いたので彼は嬉しかった。彼はすぐに桂庵へ行った。赤茶けた髪の婆さんが出て来た。頭から足先までじろじろ見られるので、可なり不快な気がしたが、それを我慢して乳母を頼んだ。
「宜しゅうございます。心当りが一人ありますから、聞き合せてみましょう。少し月が違いますけれど、牛乳よりはどんなにましだか分りませんよ。牛乳をおやりなさると……。」
 牛乳と母乳との講釈が出そうになったので、順造は至急に頼むと云い捨てて飛び出した。
 空が拭ったように晴れて、日の光が冴え冴えしていた。そのぱっ[#「ぱっ」に傍点]とした外光の中で、彼は突然云い知れぬ不安を感じた。駆けるようにして帰ってきた。
 午後、産婆が見舞ってくれた。結核性腹膜炎と聞いて眉を顰めた。順造は危険な病気であることを直覚した。
 夕方、看護婦が二人やって来た。
 秋子はまた激しい腹痛を訴えていた。食物を与えるとすぐに吐いた。日の暮れ方に、坪井医学士が見舞ってくれた。注射が行われた。暫くすると腹痛が止んだ。けれど秋子はぼんや
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