た、綺麗なお児様ですこと。お手柄でございました。」
 彼は背筋がぞっとして、啜り泣きがこみ上げてきた。それを押えてるまに、眼の中が熱くなった。
 赤いメリンスの布団の襟から、円めた真綿を帽子に被った小さな真赤な顔が、少しばかり[#「少しばかり」は底本では「少しぼかり」]見えていた。
「ほんとに奥様はお強うございますよ。声一つお立てなさらないんですもの。あんなに激しい陣痛を、よくお堪えなさいました。でも、陣痛がおっつけ[#「おっつけ」は底本では「おっつげ」]おっつけ激しくきましたので、時間が長くかからないでようございました。よく中途で陣痛が止ってしまうような方がありますが、それには困ってしまいますよ。奥様のはそれは[#「それは」は底本では「ぞれは」]激しくて、それをまたじっと我慢していらっしゃるので、代りに私共がうんうん唸ってあげましたよ。」
 産婆は助手を顧みて、顔を輝かしていた。
 順造は秋子の方を覗き込んだ。総髪《そうがみ》に取上げた先を麻で結え、四五本のほつれ毛が額にこびりついていた。透き通るように蒼白い顔の皮膚をたるまして、枕の上にがっくりとなっていた。疲労の余りに興奮した眼だ
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