び足で近寄っていった。両膝の先を開き加減にして、臀をどっしりと畳に据えながら、大きな腹をつき出し、痩せた薄っぺらな胸と肩とで息をしてる、その様子が可笑しかった。
「何を考えてるんだい?」
彼は笑いかけていたが、握り向いた彼女の没表情な眼を見ると、その笑いを顔に出すことも引込めることも出来ないで、中途半端な渋め顔をした。
「時々腹に瘤が出来るんですよ。赤ん坊が手か足かを伸してるのじゃないでしょうかしら。こんなに固くなって……。」
乳首が黒くなって、顔が蒼白く色褪せていた。
「見せてごらん。」
はだけた胸から手を差込んでみたが、彼には何にも感ぜられなかった。大きな山の裾野を思わせるような腹部が、押してもびくともしないほどの根強さで頑張っていた。
「まるで鉄の扉みたいだね。僕がノックしてみよう。中で返事をするかも知れない。」
冗談のつもりだったのが、云ってしまってから真剣な怪しい気持になった。拒む彼女の手を押のけて、とんとんと叩いてみた。
「いけませんよ。もし不具《かたわ》の児でも生れたら責任を持って下すって?」
「お前でも、どんな児が生れるか心配になることがあるのかい。」
「何を仰
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