んでいった。
「豪勢威勢のええ女《あま》っちょだなあ。」
地引が上ると漁夫達は皆機嫌がよかった。姉も機嫌がよかった。
「どう?」彼女は俊子の前に手の魚を振ってみせた。「私が海にはいってつかまえたのと同じことよ。」
「そうね。」
苦笑とも揶揄ともつかない俊子の言葉に、姉は一寸意気込んでみせた。
「私は海で鍛えた真黒な人達の間に交って、その生活を味うのが好きよ。あなたはもっと元気にならなくては、折角海に来た甲斐がないわよ。松原を歩いたり海岸をぶらついたりするきりでは、つまらないじゃないの。」
「私には、馴れないせいか、自然の方が面白いような気がするわ。」
「どうして。」
「どうしてって、云ってみれば、海には海の大きな霊といったようなものが感じられるから。」
「また例のロマンチックが初ったのね。」
「そうじゃないわよ。私此処に来てはじめて、海には海の霊があることを、どうしても否定出来ない気がしてきたのよ。……静夫さんはどう思って?」
彼は何と答えてよいか分らなかった。が兎に角、彼女の言葉をじっと聞いてると妙に不安になった。
「そんなことを云ってた漁夫があります。」
「そんなら、」と俊子
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