が快《こころよ》く温まっていた。
 海の岸まで行って、其処に身を投げ出した。
 一色の青のうちに平らに見える海が、一町ばかりの沖の方から大きな波に高まって、やがて白い波頭をふり立てながらざざざざと寄せてくるかと思うまに、頂辺《てっぺん》からどっと崩れて捲き返した。それが無数に連って、松林と砂丘との真直な九十九里ヶ浜を、眼の届く限り遠くまで……末は茫とした水煙のうちに霞んでいた。耳を澄すと、ごーという地響きに似た音だった。その合間に、ごく近くに、さらさらと軽やかな音とも云えない音がする。風に吹かれた金砂が、日の光りに粉のように輝いて、浜辺を一面に走っているのであった。濡れた海水着が、いつのまにかそれを一杯浴びていた。
「そんな強い風でもないのに、ひどい砂ね。」
 独語《ひとりご》った姉の言葉に、俊子は沖の方を見ながら答えた。
「だって可なり強いんでしょう、あんなに波が立ってるから。」
「それは外海の波ですもの、風がなくても高いわよ。」
 だが、一処、妙に波が低くて白く捲き返さない場所が、すぐ向うに見えていた。
「あら、あすこはどうしたんでしょう。」
 俊子ばかりでなく、姉もまだそれを知ら
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