と泳ぐふりをして歩いてるのであった。彼は少し速力をゆるめて、姉が近づいた頃合を見計って、いきなり水にもぐった。足を捉えて引きずり込んでやるつもりだった。が……その足が見当らなかった。暫くしてひょいと水から首を出してみた。姉は早くもそれと察して、俊子の方へ逃げ出していた。彼は追っかけていった。姉は漸く俊子の側まで逃げのびると、俊子の腕につかまって、息を切らしながらも笑っていた。
 俊子と一緒では仕方がなかった。それでも癪だったので、水をぶっかけてやった。
 日の光りの中にぱっと水抹《しぶき》が立って、その下から、
「お止しなさいよ……そんなこと……卑怯よ。」
 それが、姉の声だか俊子の声だか分らなかった。また水をぶっかけようとすると、二人は岸の方へ逃げていった。
「もうあなたと一緒には水にはいらない。」
 顔に浴びせられた水を掌で拭きながら、姉は怒った風をした。
「だってあなたの方が悪いわよ。」
 と俊子は云って、まだ笑ってる眼付で彼の方をちらと見た。
 彼は大きな赤貝の殼を拾って、川の方へ力一杯に投げた。その真白いのが空高くくるくると廻って、水の上にぽちゃりと落ちた。
 なだらかな砂地
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