はり以前から見馴れた俊子だった。
「おかしいぞ、」と思う心が眼に籠って、彼女の顔をじっと眺めた。眼を外らしたのを、更にまじまじと眺めてやった。
「どうしたのよ、黙ってばかりいて。」
その方へ眼をやると、姉もまた顔を外らした。
「どうしたんです。」とこちらから尋ねてやりたいくらいだった。が、それから彼女達が、学校――二人は女子大学の同窓だった――へは十五日頃からで大丈夫だ、というようなことを話し出したのを聞いてると、少し分りかけてきたような気がした。
「今日は幾日です。」
「八日よ。」
姉の言葉と一緒に、鼻の高い痩せ形の真白い顔がこちらへ向けられたのを見て、彼は妙にぎくりとした。頭の中がまたもやもやとしてきた。
十一
無理に姉へねだって夕食の時少しばかり飲んだ酒のために、彼は身体がぐったりしてしまった。寝転んでると、自分でもおかしいほど眠くなった。姉と俊子との話を音楽のように聞きながら、いつのまにか眠ったらしい。
眼を覚すと、室の中には誰も居なかった。電灯の光りが余り明るすぎた。寝返りをしてみた――いつのまにか枕をして褞袍を着ていた。
「静ちゃん、眼がさめたの。」
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