に取られると小さな羽をばたばたやった。
「可哀そうですわ。助けておやりなさいな。」
「ええ。」
と答えて行こうとすると、後ろから、彼の方へ呼びかけるのでもなくまた独語でもなく、何気ない調子で、
「もう今日きりね。晩にまた海へ出てみましょうか、屹度月が綺麗ですわ。」
振り向いてみると、彼女は顔の下半分で微笑んでいた。が、じっとこちらを見てる黒目がちの眼が、変に熱く鋭く感ぜられた。
彼はやはり場を失った眼を俄に伏せて、松林の方へ馳けていった。
その日見た――初めてのようにしみじみと而もひそかに見て取った彼女の姿が、頭の奥にこびりついていた。――地引網が上ってくるのを、まじろぎもしないで見つめてる立ち姿が、肩がしなやかにこけて、臀から股のあたりにむっちりとみがはいっていた。――水から出て海岸の砂に寝そべりながら、赤く日に焼けた上膊から剥がれる薄い皮を、しなやかな指先でそっとつまんで引張りながら、
「こんなに皮がむけてきたわ、もう一人前ね。」……だが、濡れた海水着がぴったりとくっついてる痩せた胸には、姉のに比べると余りに小さな、ぽっつりとした乳房が淋しかった。――湯から出てお化粧をして
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