からの遊びに疲れはてていた。
「負けると猶更止められなくなるんですってね。」
「あら、あなたの方が負けが込んでるじゃないの。」
「そうかしら。」
 点取りの表を覗き込んだ俊子の細そりした頸筋が、彼の眼の前に滑らかな皮膚を差伸べた。

     七

 明日東京へ帰るという日は、朝から綺麗に晴れていた。これを最後だというので、地引網にゆき、海岸をぶらつき、水にはいり、また松林の中を歩いた。春には松露《しょうろ》が沢山取れるという松林の中には、所々に名もない箪が出てるきりだったが、その代りに、尾長《おなが》と俗に呼ばれてる白と黒と灰と三色の美しい鳥が沢山居た。巣立ったばかりの雛が枝から枝へと危っかしく飛び移っていた。
 彼はその雛の小さいのを一つ、松から揺り落して家の庭に持って来た。持っては来たが、さてどうしていいか分らなかった。
「あら、なあに?」
 張りのある澄んだ俊子の声が響いたかと思うと、此度はやはり彼女の喉にかかったゆるやかな声が、
「まあ、可愛いいんですね。」
 飯粒を持って来てくれてやったが、食べようともしなかった。地面に置かれるときょとんとした眼付をしてじっとしてるのに、掌
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