嫌いなのよ。」と真中に居る姉が答えた。
「そう。私はどちらかというと好きな方よ。」
「蛇が!」
「ええ。もとは嫌いだったけれど、だんだん好きになるような気がするわ。一番いやなのは蚯蚓、ぬらぬらしてるから。」
 蚯蚓がいやで釣が出来ない自分のことを思い出して、彼はふと振り返ってみた。
 俊子はもう眼を地面に落して、其処に匐ってる蚯蚓の上を飛び越していた。その顔が、気のせいか、提灯と同じような白さに見えた。

     六

 晴れた日には、地引網を見たり、水にはいったり、散歩をしたり、松林の中に迷い込んだり、畑の薩摩芋を盗みに行ったり、遊ぶことはいくらもあったが、雨の日は退屈で仕方がなかった。雨と云えば大抵風雨だった。
 南寄りの東に海を受けてる土地だったが、海鳴の音は多く南か北かに聞き做された。南で鳴れば不漁、北で鳴れば大漁、としてあるその海鳴が、風雨の晩は南にも北にも聞えた。その響きに包まれて、雨と風との音がざあーと雨戸にぶつかってきた。
「あれ、今時分どうしたんでしょう?」
 耳を澄すと、なるほど地引網の時と同じ様な喇叭の音が、遠くかすかに伝わってきた。
「船上げですよ。」
「船上
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