」
「うむ、どんな高いところへでも連《つ》れていってやる。そのかわり、また下へおりようといっても、それはわしは知らない。それでよかったらわしと一|緒《しょ》にくるがいい」
「行こう」
そういって王子は立ちあがりました。
「しかし、下へおりたくなったからといっても、もうわしは助《たす》けてやらないよ」と老人《ろうじん》はいいました。
「高いところへあがれさえすれば、下へなんかはおりなくてもよい」と王子は答《こた》えました。
「それでは行こう」
老人《ろうじん》は王子の手を取って、杖《つえ》を一振《ひとふ》り振《ふ》ったかと思うと、二人はもう高い壁《かべ》の上にあがっていました。王子はびっくりしました。この老人《ろうじん》は魔法使《まほうつか》いに違《ちが》いない、と思いました。しかし恐《こわ》がることがあるものか、と思いなおしました。見ると、自分が今まで居《い》た庭《にわ》や城外《じょうがい》の町などはずっと、下の方に見おろされました。往《い》き来《き》してる人間が、豆粒《まめつぶ》のように小さく見えました。王子は嬉《うれ》しくてたまりませんでした。そして、城《しろ》の高い塔《とう》を指《さ》して老人《ろうじん》にいいました。
「こんどはあの塔《とう》の上に行こう」
老人《ろうじん》が杖《つえ》を振《ふ》ると、二人は一番高い塔《とう》の屋根《やね》にあがりました。王子はまだこんな高いところへあがったことがありませんでした。足下《あしもと》には、広い城《しろ》が玩具《おもちゃ》のように小さくなって、一足《ひとあし》に跨《また》げそうでした。庭《にわ》や森《もり》や城壁《じょうへき》や堀《ほり》などが、一目《ひとめ》に見て取れて、練兵場《れんぺいじょう》の兵士《へいし》たちが、蟻《あり》の行列《ぎょうれつ》くらいにしか思われませんでした。城《しろ》のまわりには、小石を並《なら》べたような町|並《なみ》が、遠《とお》くまで続《つづ》いていました。その末《すえ》は広々とした野《の》になって、一|面《めん》に、ぼうと霞《かす》んでいました。王子はただうっとりと眺《なが》めていました。
「まだ高いところへあがりたいか」と老人《ろうじん》はいいました。
王子は我《われ》に返《かえ》って老人《ろうじん》の顔《かお》を見あげました。それから、向《むこ》うの高い山の頂《いただき》
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