強い賢い王様の話
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)印度《いんど》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一番|面白《おもしろ》い。
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 むかし印度《いんど》のある国に、一人の王子がありました。国王からは大事《だいじ》に育《そだ》てられ、国民からは慕《した》われて、ゆくゆくは立派《りっぱ》な王様になられるに違《ちが》いないと、皆《みな》から望《のぞ》みをかけられていました。
 ところが、この王子に一つの癖《くせ》がありました。それは、むやみに高い所へあがるということでした。庭《にわ》で遊《あそ》んでいると、大きな庭石《にわいし》の上に登《のぼ》って喜《よろこ》んでいますし、室《へや》の中にいると、机《つくえ》や卓子《テイブル》の上に座《すわ》りこんでいます。そういう癖《くせ》がひどくなると、しまいには、後庭《こうてい》の大きな木によじ登《のぼ》ったり、城壁《じょうへき》の上に登《のぼ》ったりするようになりました。国王や家来《けらい》たちは心配《しんぱい》しまして、もし高いところから落《お》ちて怪我《けが》でもされるとたいへんだというので、いろいろいってきかせましたが、王子は平気でした。ある時なんかは、城《しろ》の中に飼《か》ってある象《ぞう》の背中《せなか》に乗《の》って、裏門《うらもん》から町へでて行こうとまでしました。その象《ぞう》がまた、平素《へいそ》はごく荒《あら》っぽいのに、その時ばかりは、王子を背《せ》にのせたまま、おとなしくのそりのそりと歩いているのではありませんか。
 国王はひどく心配《しんぱい》しまして、なにか面白《おもしろ》い遊《あそ》びごとをすすめて、王子の気を散《ち》らさせるにかぎると思いました。それで、多くの学者《がくしゃ》たちが集って、いろんな面白《おもしろ》い遊《あそ》びごとを考えだしては王子に勧《すす》めました。すると王子はこう答《こた》えました。
「高いところからまわりを見おろすのが一番|面白《おもしろ》い。世の中にこれほど面白《おもしろ》いことはない」
 どうにも仕方《しかた》がありませんでした。それで皆《みな》は相談《そうだん》して、その癖《くせ》が止《や》むまでしばらくの間《あいだ》、王子を広い庭《にわ》に閉《と》じこめることになりました。庭《にわ》には木も石もな
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