を指《さ》しました。
「あの山の上へ行こう」
老人《ろうじん》が杖《つえ》を振《ふ》ると、二人は宙《ちゅう》を飛《と》んで、すぐにその高い山の上にきました。王子はそこの岩《いわ》の上に立って眺《なが》めました。城《しろ》や町はもうひとつの点《てん》ぐらいにしか見えませんでした。土饅頭《どまんじゅう》ぐらいな、なだらかな丘《おか》が起伏《きふく》して、その先《さき》は広い平《たい》らな野となり、緑《みどり》の毛氈《もうせん》をひろげたような中に、森や林が黒《くろ》い点《てん》を落《おと》していて、日の光りに輝《かがや》いてる一筋《ひとすじ》の大河が、帯《おび》のようにうねっていました。
「もうこれきりにしようか」と老人《ろうじん》がいいました。
王子はまた夢《ゆめ》からさめたような気持《きもち》で、老人《ろうじん》の顔《かお》を眺《なが》めました。それから、うしろの方の一番高い山の頂《いただき》を指《さ》しました。
「あの山の上へ行こう」
老人《ろうじん》が杖《つえ》を振《ふ》ると、二人はまた宙《ちゅう》を飛《と》んでその山の上へ行きました。
王子はびっくりしました。その山が一番高いのかと思っていましたのに、きてみると、さらに高い山が向《むこ》うに聳《そび》えています。王子はいいました。
「あの山の上へ行こう」
老人《ろうじん》と王子とはまたその山の頂《いただき》へ行きました。すると、さらに高い山がまた向《むこ》うにでてきました。もう下の方を見|廻《まわ》しても、積《つ》み重《かさな》った山や遠《とお》い野が少し見えるきりで、初めのような美《うつく》しい景色《けしき》は眼《め》にはいりませんでした。薄黒《うすぐろ》い雲《くも》がすぐ前を飛《と》んで行きました。
「あの山の上へ行こう」と王子は向《むこ》うの高い山を指《さ》していいました。
「望《のぞ》むならつれていってもいい」と老人《ろうじん》は答《こた》えました。
「しかし帰《かえ》りはお前一人だぞ。城《しろ》の庭《にわ》へおろしてくれといっても、わしは知らないが、それでもいいのか」
王子は少し心|細《ぼそ》くなってきましたが、それでも構《かま》わないと答《こた》えました。そして二人は向《むこ》うの山の上へ行きました。もう、なんにも見えませんでした。薄黒《うすぐろ》い雲《くも》が足下《あしもと》に一|面《
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