いいものですわね。」
其処に上さんが茶を持って出て来た。
「おや林さんですか。誰かと思ったら。……先日の晩は大変でしたでしょう。」
「ええ少し……。」と云って林はにやにや笑っていた。
上さんは林の顔を覗き込むようにして囁くようにこう云った。
「大丈夫ですか。」
「ええ。」と林は首肯いた。
それから林は普通の声で、上さんに西洋料理を二三品頼んだ。
「実は腹が空いたのでぶらりと出かけたんですが、こちらについ先に来てしまったんです。いえなに……、」と彼は時計を仰ぎ見た。それは九時を過ぎていた。「十時頃でいいんですよ。まだ大分雨が降っていますから。」
松井は林をじっと見た。そして支那人かも知れないと云った村上の言葉が可笑しくなった。然し林の妙にだだっ広い額を見ているとわけもなく腹立たしくなってきた。それでも彼は終りに綺麗に球を突き切ってしまった。
「此度は林さんといらっしゃいよ。……林さん松井さんとお一つどうか。」とおたか[#「たか」に傍点]が云った。
「さあ、」と云い乍ら松井は突棒《キュー》を捨てて椅子に腰を下した。
けれども林は立って来て球を並べながら云った。
「一つお願いしまし
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